back number, No.64

2024-01-21
63.満身が装威

百花騒鳴

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今季の気象は、例年と違う。凍えるような寒い日もあれば、汗ばむような日もある。そこに、更年期症状も相まって、不調をきたすことが多々。今号の編集作業中も、頭痛と肩こりに悩まされ辛抱できなくなったために、深夜のリラクゼーションサロンへと向かった。出迎えてくれた人は、大柄な男性。この人なら、きっと私の厚めな脂肪を乗り越えて、ツボまで到達してくれるに違いないと一目で確信した。安心と信頼を抱いて、施術台でうつ伏せになる。背面全体を伸ばすような軽擦から始まる。その時点で、非常に心地よい。大きな手のひらで、丁度いい圧を掛けてくれる。ムダな会話もなく、的確に疲労部位へアタックしてくれる。そんな心地よいまどろみの中で、ふと思い出したことがある。以前見たテレビ番組で、施術者さんが話していた。「私、凝ってるでしょう」というお客さんがいるが、それほど凝っていない。けれど気を使って「そうですね。随分お疲れのようですね」と答えるという。他者からしたら、自分の肩こりは大したことがないのだから、「疲れ自慢」みたいな発言は気を付けようと思ったのだった。本日の私のコリなど、この達人からしたら赤子の手をひねるようなものだろうと思っていた。しかし、しばらくすると様子が変わってきた。「ふ~」っとため息とも、深呼吸ともとれるような声が男性から何度も聞こえてくるようになった。そして一言、呟いた。

「柔らかい部分が一カ所もない」

どうやら、疲れ自慢を気にしている場合ではないようだ。むしろ、私の固まった身体が施術者にダメージを与えている?「おじさん、申し訳ない」と心で呟くも、至極の時間に甘えさせてもらうこととした。十分に達人の指圧を堪能し、清々しい気分で起き上がった時、達人は幾らか年老いてしまったようだった。「ちゃんと、温める生活を送ってくださいね、身体が鎧みたいですよ」という嘆きのようなアドバイスに、「はい。気を付けます。皆さんと同料金ですみません」と一礼した。すっかりリフレッシュできたところで、今年も貫禄のボディで駆けていこうと思う。

 

今号も最後までお読みいただき、ありがとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いします。次回は、梅の香りが漂う頃にお会いしましょう。

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