back number, No.61

2023-07-16
百花騒鳴

60. 神輿

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お盆になると、我が家は慌ただしくなる。毎年8月15日には、氏神様を担ぐ神輿が町内を渡御する。この神輿だが、我が叔父が地域活性のため、30年前に神輿会を立ち上げたことから始まった。今では町内行事となっているが、発起人である我が家は一族総出でサポートすることが習わしとなっている。静岡市内には、各神社の氏子衆で組織された数十年以上続く老舗の神輿会が数多くある。専門の職人たちが組み上げた立派で重厚な神輿を、これまた立派な専用の担ぎ棒に固定する。それを粋に法被を着こなした担ぎ手が「セイヤ」「サー」という特有の掛け声と足踏みのような独特の歩き方で調子を取りながら担ぎ、ゆっくりと進んでいく。人を載せることもあり、かなりの重量になることから、立派な神輿ほど威勢良くもゆっくりと進む。一方、我らの神輿会といえば、今でこそ小さいながらも専門職人が組み上げた本物の神輿を担いでいるが、立ち上げ当時は違っていた。製作者は、近所の手先の器用なおじさん。初代の神輿は、なんと屋根はペンキで補強した段ボール製であった。そのため、氏子たちは、天気を気にしながら練り歩く。夕立雲が現れ、ポツリと来ようものなら、神輿に被せるビニール袋の準備を始める。しかし、慌ててはいけない。凹みやすいデリケートな素材である。雨でペンキが滴り落ちることを心配しつつも、強い衝撃で破れないように神輿を守る。また、渡御にも工夫が必要だった。他団体の神輿は本体も担ぎ棒も重いが、こちらは軽さに定評のある段ボールであり、担ぎ棒もお世辞にも太くて立派とは言い難い。よって、非常に軽量な神輿であることから、気を抜けばウォーキングかと思うようなスピードで進んでしまう。野暮を絵に描いたような素人神輿であった。そんな私たちに、応援に駆けつけてくれる老舗団体の担ぎ手さんは、笑わいながらも「神輿の粋」についてあれこれと手解きをしてくれた。ここ数年はコロナ禍で中止となっていたが、今年は開催を予定している。30年前に野暮だった担ぎ手たちも、貫禄ある姿で町内を練り歩く。

 

今号も最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

次回は、草木がきらめく白露の頃にお会いいたしましょう。

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