back number, No.10

2015-01-01
百花騒鳴

百花騒鳴

9、身に凍みる

今回の美容のテーマが「冷え」。取材では、身をもって冷えの恐ろしさを体験したのである。話は数年前の冬にさかのぼる。そのころ、まだ人間らしい体型をしていた私は、ちょっと高めのダウンコートを買ってもらった。「一生ものですから。大切に着ますから」ってな調子のいいことを言って…。
 
近ごろ、そのダウンがどうもキツイ。フロントのジッパーを締めるのが苦しい。明らかに、着てはいけないサイズになっている。けれど、一生着ます!と啖呵をきった手前、着ないわけにはいかない。とりあえず、前は開けたままで着ている。そんなに支障はない。失笑は買っているかも知れないが。
 
けれど、遂に由々しき事態がやってきた。早朝のロケである。車を駐車場に置き、いざ外へ出たら鼻がツーンとする寒さ。周囲も「ヒィー」と言って縮みあがっている。目的地まで案外距離がある。マフラーも手袋も持ってこなかった私にとって、唯一の味方はサイズの合わないダウンのみ。いつものように羽織って歩きだした。寒い、お腹に冷たい風が当たる。周りが「ジッパー締めな。冷えるよ」と言い出した。適当にはぐらかす。また言われる。はぐらかす。それを何回か繰り返し、寒さにも負け、意を決しジッパーを上げた。するとミシュランマンか、今年流行するであろうベイマックスのようになった私を見て、周囲が一斉に言い放った。
 
「開けな」
ジッパーを下ろし、ロケに臨んだ。その後は、一日中「寒い。寒い」と念仏のように唱えることとなった

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