back number, No.32

2018-09-08
一口で消え去る小鉢に、職人の心が宿る

北條05

北條

わざわざ行く価値のある一軒。山梨県へ向かう国道52号線沿いに建つその屋敷は、目の前を鮎釣りで有名な興津川に流れ込む清流が流れ、屋敷の裏手には緑の深い山がそびえている。自然の中に溶け込む佇まいは、元々この土地にあった築70年超える建物の一部を再利用している。しっとりとした室内の雰囲気に、料理への期待も自ずと高まる。ここで腕を振るうのは、ご主人の北條文之さん。京都の老舗や静岡の名店・海さかで修行を重ねた経験を軸に、日本料理の基礎を守りながら、食材の特性を生かした調理を施していく。小鉢に盛る細やかな一品さえ、手を抜かない。香ばしく焼いた〆鯖の解し身と合わせるのは、2時間かけて臭みを消し甘味を引き出した粗めの大根おろし。歯切れのいいカキノキダケと軸ミツバが食感と香りを添える、〆鯖のみぞれ和えが出来上がる。三口ほどで食べ終え消え去っても、舌と心にしっかりと刻まれる。

これからの季節は、山の素材も海の素材も味わいを増す。ぷっくりと身を太らせた落ちアユ。浜名湖産のスッポン、遠州産のトラフグ…要望に応じて、各地の旬の素材を用意し、技の光る料理を提供してくれる。なかでも近頃常連に人気というのが、注文を受けてから開く鰻料理。地焼きか蒸し、こってりとした甘タレか、キリっとした辛タレかを選ぶことができ、好みの味で鰻を堪能できる。鰻御膳は3,800円(価格変動の可能性あり)、鰻を含むコースは5,500円から対応可能。その他、昼席は2,500円から、夜席は4,500円から。

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