最新号
2025-01-14
69. 跳人
百花騒鳴
この冬、家族を伴い雪深い青森へ出掛けた。日中、景勝地を巡った後、雪の降り積もる道路をゆっくりと運転しながら、旅の最大の目的地である温泉旅館へ向かった。その宿では、青森らしい様々なアクティビティを用意し、滞在者をもてなす。中でも人気の催しは、通年行われる祭りのショー。津軽三味線の演奏、民謡の歌唱に始まり、重要無形民俗文化財の「八戸三社大祭」「青森ねぶた祭」に「弘前ねぷたまつり」といった青森県の各地で行われる有名な祭りを体験できる。ショーのフィナーレには、来場者がステージに立ち、青森ねぶた祭の踊り手「跳人(はねと)」となって、踊ることができる。お囃子のリズムに合わせ、「ラッセラー、ラッセラー」と掛け声を発し、片足でジャンプする。演者たちのお手本を目にし、「運動不足の中年にはハードな運動だな」と思ったが、根っからの祭り好きのお調子者一家である。「はい!踊ってみたい人?」という司会者の問いかけに、条件反射のように「ハイ!」と大きな声を上げ、後期高齢者の母と私はステージに躍り出た。ステージに出てきた人たちは、花笠という跳人が付ける華やかに飾り付けされた編笠を借り、演者と共に跳ねる。とにかく跳ねる。それが楽しい。「ラッセラー、ラッセラー」とひとしきり飛んで祭りが終わった。母は不器用にワンテンポずれたジャンプをしていたが、とても楽しんでいたようだった。しかし、会場を去る足取りがおかしい。「足つっちゃったみたい~。痛いわ~」という。ならばと、温泉に向かい、とろみのある湯に浸りながら、母のふくらはぎを念入りにマッサージしてあげた。しばらくすると、ふくらはぎは酷い内出血を起こした。それを、後日かかりつけ医に見てもらうと、真っ黒なふくらはぎに驚き
「どうしたの?!何したの?!」
「ねぶたを踊って……えへへ」と母。「それを、温泉の中で揉んで……ハハハ」と私。
「ダメだよ~、揉んじゃ~」と失笑の医師と看護師。どうやら、肉離れを起こした患部を揉んだことで悪化させたらしい。孝心も場合により仇となることを知った。それでも懲りず、基、学ばず、今年も一家で跳んでいこうと思う。
今号も最後までお読みいただき、ありがとうございます。
本年もご愛読のほど、よろしくお願い申し上げます。
次回は、龍天に登る頃お会いいたしましょう。