back number, No.56

2022-09-16
百花騒鳴

55.夜更け

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地声が大きいからだろうか。うちの母は、寝言も大きい。離れた場所で熟睡していても、母の発する声に起こされることはしばしば。しかし、何を言っているのかまでは聞き取れない。ある時、気持ち良く寝ていた我が娘は、祖母の繰り返す言葉に起こされた。「〇〇、勉強しなさい。〇〇、勉強しなさい」と延々と繰り返しているように聞こえたという。娘はいつも言われているから、そのように解釈したのだろう。しかし、寝言を発した本人が言うには、怖い夢を見ながら「南無妙法蓮華経」と唱えていたというのだ。最近では、愛犬がその被害にあった。深夜、母の寝所から、「うぇ~うぇ~うぇ~うぇ~。ふぁふぁふぁふぁ」と奇妙な声が聞こえてきた。まるで、宇宙と交信しているかのようだ。家族全員が、その声に起きた。しばらく、母の声は続く。何となく嫌な予感がした。次の瞬間、家族に対して決して吠えることのない幼い愛犬が、起き上がり「ウォンウォンウォンウォン!」と警戒の声を上げたのだ。母の寝言を聞き慣れた私は「やっぱりね、夜中に聞くと怖いよね~」と愛犬に同情。

「大丈夫だよ。あれは、ばあばの寝言だよ」と声を掛けると、「え?マジ?」という顔で私を見た。その後、「やれやれ」とでも言ったように、大きなため息を一つ吐き、また静かな眠りに就いた。

 

今回も最後まで、お読み頂きありがとうございます。次回は、柊の花の咲くころにお会い致しましょう。

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