back number, No.59

2023-03-26
百花騒鳴

58. パッション

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巻頭で紹介した作家の遥のぶさんは、研究熱心で常に作品の改良を重ねている。新しい作品を拝見する度に、素敵に変化していると感じる。アーティストの情熱は、作品に宿るものなのだろう。我が家にも、1人画伯がいる。中学時代に美術部員であった娘である。ある日、学園祭にて個々の作品を展示することになったという。先輩や後輩の作品が見られる機会とあって、「どんな作品が展示されているのだろう」と楽しみに展示室を訪ねた彼女。展示室の前の廊下から、室内の様子が伺える。遠くからでも、迫力ある作品が目に飛び込んでくる。その中で、ひと際目立つ絵画があったという。乱雑に縦縦縦、横横横と絵筆を動かした後がくっきりと分かる。「何だろう?周りよりも、随分見劣りする作品だな」と思いながら、近づいていった。そして、絵画の下に貼られた名前を見て、愕然とした。なんと、娘本人が描いた絵だったのだ。「うわ!私じゃん。はず~」と言って、その場を跡にしたそうな。美術が得意でないのに、入部してしまった画伯。次の年にも、展示の機会はやってくる。同じ轍を踏むまいと一計を案じた。画用紙を真っ黒に塗りつぶした後、チューブから出したままの濃い絵の具を離れた場所から、黒い画用紙めがけて何度も不規則に投げつけた。鮮やかな色の線や点が不思議な雰囲気を醸す。これを「ユニバース」と名付けて展示した。本当は絵が描けなかっただけなのだが、異才を放つ画伯の作品は、周囲から妙に評価されることとなった。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます。次回、薫風爽やかな季節にお会いいたしましょう。

 

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