back number, No.51

2022-01-06
百花騒鳴

名俳優

スクリーンショット 2021-12-30 12.37.02

今号の表紙に登場したワンコは、我が家自慢の駄犬である。「アルプスの少女ハイジ」に登場するイヌと同犬種セントバーナードのオス。7歳を過ぎたシニアだ。寿命の短い超大型犬にとって、7歳という年齢は立派な後期高齢者に該当する。必要以上に体力を消費しない、物事に関心を示さない、耳が遠い……いわゆる、おじいちゃんだ。撮影当日は、ロケ地までの移動による負担を理由に連れていくことを諦めようとしていた。私は支度を済ませ玄関へ向かうと、なんと彼が「やる気、行く気満々」で立っていた。「さあ、行くぞ!」と言っている。いつも私が出かける時は、寝ながら尻尾を2、3度振るだけで「いってらっしゃい」の意思表示をする横着モノなクセに。「どうしよ、この子やる気だよ」と母に言う。「そうだよ。モデルさん、頑張るのよ~って言いながらブラッシングしておいたんだから」仕方がない。イヌの好意を無駄にするワケにはいかないと、連れて行った。撮影ポイントにスタンバイする。「はい!」という合図で歩きだす。こちらに向かい、よそ見もせずカメラから目線を外すことなく歩いてくる。彼なりに一生懸命だ。しかし、何度か繰り返えすうちに、疲れが出始めた。そんな時、カメラのHちゃんの「ごめん!もう一回歩いてきて」に、彼がきっとこう答えた「なんやて~」その場にいた全員がその心の声を聞いた。しかし、元々そこはやる気満々でやってきた老犬。私にヨダレを一拭きさせると、「さあ、行こうか!」と言い、自らリードを引っ張りスタート地点へ戻っていった。私たちは、その後ろ姿を見送り「あれは、葵区の三船敏郎だね」と呟いた。

今号も最後までお読みいただき、また、本年一年ご愛読いただきありがとうございます。来年は、皆さまにとって良き年になりますようお祈り申し上げます。次回は、安定や陽気の意味を持つと言われる「壬寅」の新春にお会いいたしましょう。

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