back number, No.66
2024-05-30
自然を融合する蕎麦と里山料理を、五感で味わう
めぐり庵
藤枝市の山間部に位置する紺屋地区。清流、瀬戸川が近くを流れ、樹々の梢が揺れる自然豊かな場所。ここに、同市の景勝地、蓮華寺池公園の傍で人気を呼んでいた蕎麦店「めぐり庵」が2023年9月に移転オープンした。店舗は、200年ほど前の古民家を再生した、天然素材で建てられた趣のある家屋。しっとりとした空気が漂い、ゆっくりと時間が移ろう。そんな贅沢な空間で、振る舞われるのは、こだわりの自家製蕎麦と工夫を凝らした里山料理。蕎麦は、日本各地で栽培された在来種のソバの実を取り寄せ、自家製粉している。近くの烏帽子山系の伏流水である井戸水を使って、手打ちで製麺。店主の久保田さんの打つ蕎麦は、職人仲間からも「美しい。蕎麦への思いやりが、隅々に宿っている」と一目置かれる。使う実は、どれも選び抜いた産地から届く、静岡ではなかなか味わえないレアなもの。主に、二八蕎麦に使用する南阿蘇産の実は、食べやすく噛むほどに甘みが広がる。十割蕎麦は、長崎県の対馬列島のものを使用。ほのかに草や土の風味を感じさせる野性味があり、強いコシが特徴。個性のある蕎麦に合わせるつゆにも、様々なこだわりがある。ダシは、枕崎産の本枯れ節、古来の手火山式焙乾製法で作られる荒節などをブレンド。冷たい蕎麦には力強い風味を引き出したダシに。温かい蕎麦には鯖節を加え、まろやかな印象に仕上げている。かえしは、木樽仕込みの醬油、昔ながらの製法で作られる本みりんなど、丁寧に作られた調味料を使う。隅々まで意識をいきわたらせた、蕎麦、ダシ、かえし、どれもが個性を持ちながら調和する。この蕎麦を満喫したい時には、めぐりそば(3,000円)がよい。趣の異なる3種の蕎麦に、季節の野菜や小鉢が付く。
蕎麦同様に、個性を放つのが里山料理。料理を担当するのは、静岡市内で人気料理店「IYAU」を営んでいた奇才の料理人村松氏。使用する食材の多くは、近隣を訪ね歩き生産者から直接仕入れている。自然の中で無理なく育った、その時に手に入る旬の食材を、麹といった自家製の調味料を駆使して、蕎麦と相性のよい存在感のある料理に仕上げる。例えば、初夏の一品は、豆腐のミートローフ。豆腐や大豆、ナッツに塩麹、醬油麹、ペイスト状にした昆布などの旨み加えることで、コクや深みを感じさせる。そこに、キウイフルーツのソースで爽やかな酸味を追加する。旬を追いかけて日々変化する里山料理は、蕎麦と共にコース料理「里山コース」として、予約で味わうことができる。わざわざ出向く価値のある、至極のひと時を約束してくれる場所である。
めぐり庵
藤枝市本郷3308
070-1627-8080
11:00〜15:00(14:00L.O.)
18:00〜21:00(事前予約)
定休 木曜 第1金曜(祝日の場合は営業)
駐車場 10台
藤枝バイパス谷稲葉ICから車で8分