back number, No.37

2019-07-09
百花騒鳴

百花騒鳴

36 夜中の撮影

旅にハプニングは付き物である。私とカメラのRが行く旅には、大小を問わず何かが起こる。今回は、阿蘇の草千里ヶ浜でそれが起こった。日中は放牧された馬が、広い草原で草を食む姿が見られる。夜になると、周囲に明かりがないことから満点の星空や天の川が見られる。インスタグラムでも投稿の多い人気スポットだ。我々もステキな星空を撮影すべく、夜遅く草千里ヶ浜へ向かった。しかし、その日はあいにくの曇り空。撮影ポイントには、我々しかいない。いくら待っても、雲は晴れそうにない。そろそろ帰ろうかと思っていたところに、勢いよく一台の車が走ってきた。ヤンチャそうな青年たちが数名、車から降りてきた。始めのうちは、何とも思わなかったが、ふと怖い想像が働いてしまった。民家のある市街地までは20キロほど離れている。叫んだところで声は誰にも届かない。110番をしても、到着まで1時間近くは掛かるだろう。こちらは中年オバサン2名、勝ち目はない。追い剥ぎされて、ボコボコにされても、助けてもらえるの明日の朝以降だろう。幸か不幸か性的な被害は心配していないが、カメラや、撮影したデータが奪われたら、百花壇にとって一巻の終わり。これは、早く退散せねばと、Rに「撤収!」と叫ぶ。空気を察して、Rにも緊張の様子が伺える。私はクルマのエンジンを掛けてスタンバイ。既にシフトはドライブに入れ、Rの片付けを待つ。後ろから、青年たちが近づいてくるのが見える。こんな時は、Rの行動がのんびりと感じられる。ようやくRがクルマに乗り込んだ時には、少年は直ぐ側まで来ていた。アクセルを踏む私。焦る私を他所に、律儀なA型のRが「ちょっと待って。コートをドアに挟んじゃった」と閉まっていたドアは再度開けたのである。元来せっかちでいい加減な私は、「後にして~!」と叫んだのは言うまでもない。青年たちよ、勝手に怖い輩だと思い込んで、すまない。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
この一冊を、夏の旅行にお役立ていただければ幸いです。
次回は、アキアカネが飛び始める9月にお目にかかりましょう。

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