back number, No.35

2019-03-12
百花騒鳴

百花騒鳴

34.花吹雪

菜の花にミモザ、早咲きの桜と、至るところで花々に出合う。
ソメイヨシノが咲き始めれば、春本番。
淡い可憐な花が、一つ二つと咲き始める姿も、大樹に薄衣をまとったような満開の様子も、どちらも美しい。
我が家の前にも、大きな桜の木が育っている。今年もたくさんの花を咲かせることだろう。
この木が花をつける時期になると、思い出す光景がある。娘がまだ幼稚園児だったころのこと、庭先で遊んでいた彼女は、両手を高々と上げ、クルクルと回り始めた。風に舞う花びらの中で、踊っているように見えた。親バカである。「まぁ、可愛らしい~」と微笑ましく思った。
しかし、次の瞬間、母は不安を覚えるのであった。
「アハハハハ~、この花びら、ぜ~んぶ札束だったらいいのにな~」
まだ世間を知らないはずの未就学児に、一体何があったのであろうか。
母は娘に、カネにまつわる話をしていたであろうか? 無垢な心に、何かを植え付けてしまったのだろうか? と自問したものだ。

あれから十数年。彼女のカネに対する思い入れは、元来備わった性分ではなかろうかと思うことがある。
ある時、彼女が部屋で、貯金箱の奏でるチャリンチャリンという音を聞きながら、ニヤついていた。それを見届けた私は、何も言わず…そっと、部屋の扉を閉めた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回は、青東風の爽やかな五月にお目にかかりましょう。

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