back number, No.31

2018-07-11
百花騒鳴

百花騒鳴

30 目を閉じている間に、

 

この仕事に就いて、文字通り「おいしい」と思うのは、撮影用の料理を頂くことである。「葛城北の丸」でも「和・仏・食彩工房 monsieur MOIZUMI」でも、カメラのRと仲良くシェアしながら、美味なるコース料理を味わった。ただ、万年唱えていることだが、「私はダイエットをしている」。食事中に、ふとそのフレーズが頭をよぎる時がある。今回それが訪れたのは、冷製のスイートポテトスープを飲んでいる時であった。あまりの美味しさに、無心で匙を動かしていると、「いいの?ダイエット中だよ」というココロの声が聞こえた。静かに匙を置き、Rに後はどうぞと差し出した。

「え?目は飲みたそうだよ」とR。

「いいの。目を閉じてるから、グッといっちゃって」と私。

ああ、今なら分かるよジュリー。「寝たふりしてる間に出ていってくれ~」と歌っていたね。

沢田研二の「勝手にしやがれ」が、脳内でかかっている。愛しいモノを見送る辛さを共感している。ジュリーにとっての「お前」は、私にとっての「スイートポテトスープ」。自分の元から、今離れていく。見たくない。しかし、彼はこうも歌った。「戻る気になりゃ、いつでもおいでよ」。それを思い出し、パッと目を開けた。

次の瞬間、私の見た光景は、Rの長い首筋が優雅な上下運動し、テレビの効果音のように「ごくりッ」と音を立てスープを流し込む姿だった。決して戻らない「お前」。あ~、あ~と言いたらいのは、私も同じである。

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとうございました。

夏のムリなダイエットは危険です。お気をつけて暑い季節をお過ごしください。

次回、ひぐらしの鳴く初秋にお会い致しましょう。

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