No.47, 最新号

2021-03-13
百花騒鳴

hyakkameisou

46. かすみ

「春がすみ」とは、春に発生する霧や靄などによって、遠くの景色がぼやけて見える状態をいう。日本の美意識、そこはかとない色気を感じる響きだと思う。遠くの富士に目をやり、ぼんやりと見える時には、気温は低くとも春の到来を感じさせてくれる。今回のロケでも、かすむ日があった。取材場所へ向かって自転車を漕ぐ。晴れているのに、前方に写る山際はかすんでいる。「春だね~」なんて独り言。無事に目的地に着き、取材を進める。紙面で紹介するアイテムを確認する。商品のパッケージを確認するのも、大事な仕事だ。なんと書かれているのか、読み上げようとした。しかし、この日は、春がすみ。パッケージの文字さえもかすんで、ぼやけて、読めないのである。「あら、これ何と書いてあるのかしら?今日は、かすんでいるから~」と、言ってハッとした。春がすみで見えなくなるのは、遠方の風景。私が見えていないのは、近場の小さな文字だった。四季ではなく、老いを感じた瞬間だった。

後日、遠近両用レンズの入ったメガネを手に入れた。メガネ越しの世界は、曇った日でも案外クリアであることを知った。私が感じたあの美しい春がすみは、単なる目のかすみだったのであろうか。

 

今回も、最後までお読みいただきありがとうございました。

次回は、「新茶」のシーズンにお目にかかります。ごきげんよう。

 

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