No.30, 最新号

2018-05-17
百花騒鳴

百花騒鳴

29.憧れ

私には、元来憧れる踊りがある。ベリーダンス、阿波踊り、そして…どじょうすくい踊り。今回は旅企画で島根県の出雲、松江を訪ねたが、どじょうすくい踊りの本場、安来市もまた島根県なのである。旅のスケジュール調整の最中、私は邪な考えを巡らした。予定の撮影取材が終了すれば、憧れの踊りが鑑賞できる「安来節演芸館」へ迎えるのではないかと。同行するカメラRとともにYouTubeで予習もした。踊ってみたりもした。
いよいよ旅本番、順調に取材が進んでいく。これは、チャンスか?!公演が始まる時間に間に合うか。ハラハラしながら仕事を終え、安全運転で急ぎ会場へ。息を切らし、会場へと滑り込んだ。平日とあって、客席の人はまばら。我々は後方に陣取った。しばらくして司会者がステージに現れた。上演中の注意事項を説明した後、こう言った。
「お客様の中から5名、ステージで一緒に踊っていただきます」
こんなチャンス、そうそうない!どじょうすくいの殿堂で踊れる。例えるなら、ヴァイオリンを習い出した初日に、カーネギーホールに立つようなものである。羞恥心を抑え込み、張り切って挙手した。Rは、仕事を終えたはずの一眼レフカメラを、おもむろにバッグから取り出し、ニヤリとした。私は、絣の着物を羽織り、豆絞りの手ぬぐいを頭に巻き、ビクを腰につけ、お決まりの銭を鼻に付けた。そしてスポットライトの当たる花道を、中腰で進んでいった。さっきまで後方にいたはずのRが、カメラを構えてステージの真下まで来ている。彼女の表情は、スクープを狙うかのごとく真剣である。ならばこちらも!と、恥じらいを捨て、どじょうすくいの真剣勝負と相成った。熱のこもった踊りの様子は、私だけが満足するアルバムとして大切に保管している。

最後までお読みいただきありがとうございます。
おかげさまで今回5周年を迎えることができました。
これからも、皆様に楽しんでいただける百花壇を目指し精進してまいります。
どうぞ末永く宜しくお願い致します。

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