back number, No.16

2016-01-04
百花騒鳴

百花騒鳴

15、サルの子

年末年始のシーズンになると、幼いころの一人遊びを思い出す。

母の実家は、田舎で商店を営んでいた。まだコンビニなんてない時代、周辺に大型店舗もないことから、生鮮品に酒、衣類まで扱い、大変賑わっていた。クリスマスには、ホールのケーキが山のように積み重なり、暮れには、正月用品を買い求める人が朝からひっきりなしに訪れる。大人たちは、座る間もないほど大忙しだった。子どもは、幼い私だけ。近所の幼なじみと遊ぶこともあるが、夕暮れからは、お一人様の時間である。

大人の目が届かないことをいいことに、店舗でオヤツを物色する。お気に入りは、古いガラスの戸棚に入ったスルメである。引き戸の音を立てないように、ゆっくりと開け、大きなスルメをこっそり1枚抜くと、台所へ走る。小皿を用意し、マヨネーズ、しょうゆ、七味を混ぜてスタンバイ。薪をくべられ、パチパチと音を立てるダルマストーブの上に、スルメをのせる。身が丸くなりかけたところで、「アツアツ」といいながら、裂くのである。そして湯呑に、祖母が漬けた梅酒を、トクトクトク…と注ぎ、やかんのお湯で割る。八代亜紀の歌を口ずさみながら、夕飯前の独り晩酌を楽しむのだ。ほろ酔い気分のところで、誰かに見つかり「あんた、また梅酒飲んだね!顔真っ赤だよ。サルみたいだよ」と叱られる。これが、幼い私の一人遊びである。良い子もいたずらっ子も、決してマネをしないで頂きたい。

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